僕のばあちゃんは
晩酌でよくワインを飲んでいました。


高校生くらいの頃の話なんですが
当時の僕も
「ワイン1杯って体にいいらしいよ」
みたいな話をどこかで聞いていて。


ばあちゃんが飲んでいるのを見て
「へーよく知ってますね」くらいの気持ちで
見ていたんですよ(笑)


「血管の血栓を溶かすって聞いたことある」
くらいの雑な知識で
なんとなく信じていた時期があります。


ばあちゃんは今はもう亡くなっていて
あの頃にもっとちゃんと調べていたら
と思うこともありますね。


そこから時は流れて
いろいろ調べるようになった最近
「アルコールは1gでも体に悪い」という
研究データを読んで。


ワイン1杯のメリットより
デメリットの方が勝ちそうだよな
とうっすら思いながら過ごしていたところに


「お酒さえやめられたら
ダイエット爆速なのに、誰か考え方教えて」


というポストを見かけて
改めてメリット・デメリットを
整理して書いてみようかという流れです。


この記事では
①「ワイン1杯は健康にいい」説はどこから来たのか
②今の研究データで何が言えるのか
③がんリスクの話
④ダイエット・筋肉への影響
⑤最後に、じゃあどうするか
の順で見ていきます。




「ワイン1杯健康説」はどこから来たのか


「適度な飲酒は心臓にいい」という話は
主に1980〜90年代の観察研究から広まりました。


複数の研究で
お酒をまったく飲まない人より
少し飲む人の方が
心臓病の死亡率が低いというデータが出て
「Jカーブ仮説」 として注目されました。


Jカーブというのは
グラフの形がJの字に見えるからです。
飲まない人と大量に飲む人のリスクが高く
少し飲む人が一番リスクが低い
という形になるんですね。


「心臓への保護効果」というのは
具体的には
善玉コレステロール(HDL)が上がる
血栓ができにくくなる
といった作用のことで
「血管の血栓を溶かす」という話は
このあたりから来ています。


ただここで研究の中身を
見ておく必要があります。


この研究には大きな落とし穴があって
「まったく飲まない人」グループの中に
病気になってお酒をやめた人や
もともと体が弱い人が
混ざっていた可能性があるんです。


つまりこういうことです。


「病気になったからお酒をやめた」
→ やめた人グループに病気が多い
→ 「飲まない人は不健康に見える」
→ 「少し飲む人の方が健康に見える」


比べる相手がそもそもズレていたわけです。


この問題を避けるために
メンデルランダム化 という手法があります。


簡単に言うと
「生まれつきお酒に強い体質か弱い体質か」
という遺伝子の違いを使って
お酒の影響だけを取り出して調べる方法です。


生まれつきの体質は
本人の生活習慣や病気とは無関係に決まるので
先ほどのような「比べる相手のズレ」が
起きにくくなります。


この手法を使った研究では
心臓への保護効果は
ほとんど支持されていません。


「ワイン1杯は体にいい」という話は
比べる対象の条件がそもそもおかしかった
可能性が高い研究から広まった
というのが今の整理です。


ここまでが「健康にいい」説の話でした。
では今の研究データで何が言えるか
見ていきます。




今の研究データでどこまで言えるか


一番大きい根拠は
Lancet 2018に掲載された
Global Burden of Disease(GBD)研究です。


195カ国・2800万人以上のデータを統合した
この分野では史上最大規模の研究で
著者たちの結論はシンプルでした。


「最も安全な飲酒量はゼロである」


2023年にはWHOが
Lancet Public Healthに声明を発表して
「健康に影響を与えない安全な量は存在しない」
と明示しています。


ただ2022年のLancet(GBD 2020)では
少し細かい話も出てきました。


40歳以上で基礎疾患のない人では
ごく少量のアルコールが
心血管疾患や糖尿病リスクを
わずかに下げる可能性が示された一方で
15〜39歳では
健康上のメリットはゼロ
リスクのみという結論でした。


ただしこれも
「トータルで見ると安全とは言えない」
というのが研究者たちのコンセンサスです。


心臓への保護効果が仮にあったとしても
それが、がんリスクを打ち消せるかどうかを示した
研究は今のところありません。


ここまでが「安全な量」をめぐる話でした。
次はそのがんリスクの中身を
もう少し見ていきます。




アルコールとがんの話


ここが個人的に一番ビビった部分です(笑)


アルコールはIARC(国際がん研究機関)が定める
グループ1発がん物質です。


グループ1とは
「人に対して発がん性があることが確認されている」
カテゴリーで
同じグループに入っているのは
アスベスト・放射線・タバコです。


アルコールとの関連が確認されているがんは
少なくとも7種類で
大腸がん・女性の乳がんも
そこに含まれます。


そして重要なのは
「この量以下なら発がん作用がスイッチオフになる」
という閾値(しきいち)が
現時点の研究では確認できていないことです。


WHO欧州地域のデータでは
アルコール関連がんの約半数は
「ライト〜モデレート飲酒」
つまり週ワイン1.5リットル未満の飲み方で
引き起こされているとされています。


「ちょっとだけなら大丈夫」という安心感を
科学的に保証できるデータは
今のところない、というのが正直なところです。


ここまでが、がんリスクの話でした。
では次に
ダイエットや筋肉への影響を見ていきます。




ダイエットと筋肉への影響


「お酒をやめたらダイエットが加速する」は
カロリーだけの話じゃないです。


脂肪燃焼が止まる


アルコールは体にとって"毒"扱いで
肝臓は他のすべてを後回しにして
アルコール処理を最優先します。


アルコールが体内にある間
脂肪を燃やすプロセスはほぼ停止します。


NEJMに掲載された代謝研究
(Suter et al., 1992)では


アルコールを摂取した日の脂質酸化が
最大36%低下したことが示されています。


アルコールの代謝産物であるアセテートが
脂肪燃焼をさらに後回しにするためです。


筋肉の合成も落ちる

アルコールは骨格筋の
mTOR(筋タンパク合成に関わるシグナル)を
抑制することが報告されています。


筋トレしたその夜に飲むと
せっかくのトレーニングへの応答が
鈍くなる可能性があります。


食欲が狂う

飲んだ後に食欲が増すのも気のせいではなくて
アルコールが空腹ホルモン(グレリン)を上昇させ
満腹シグナル(レプチン)を低下させるためです。


睡眠の質も下がる

アルコールは深い眠りを阻害するため
睡眠の質が落ちてコルチゾールが上昇しやすくなり
腹部脂肪の蓄積につながりやすくなります。


つまり飲んだ夜は
「脂肪燃焼の停止」
「筋合成の低下」
「食欲の暴走」
「睡眠の悪化」
がまとめて起きているわけです。




じゃあどうするか

「だからやめろ」とは言いません。


本人が好きで楽しんでいることに
「それは間違いです」と言い切る権限は
僕にはないです。


ばあちゃんがワインを嬉しそうに
飲んでいたのを横で見ていた僕が
言えることじゃない。


ただ「知らないまま飲む」のと
「これだけのリスクを知った上で選ぶ」のは
やっぱり違うと思っています。


「健康のために飲んでいる」という理由だけは
今の研究データから見ると
根拠として弱いです。


好きで飲む
楽しくて飲む
それなら自分で判断して飲めばいい。


でも「体にいいから飲む」は
もう一度見直してもいいかなと思います。


本人が信じた情報を信じて
生きていくのが一番幸せだとは思います。


でも一応言っときますね。


お酒はほどほどにね(笑)




次に読むなら


「どうせ飲む日はある」という人向けに
飲み会や外食での現実的な対処の話を
別の記事にまとめています👇


迷ったらプロフィールからどうぞ。


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参考文献


  • Suter PM, et al. The effect of ethanol on fat storage in healthy subjects. N Engl J Med. 1992;326(15):983-987.
  • GBD 2016 Alcohol Collaborators. Alcohol use and burden for 195 countries and territories, 1990-2016. Lancet. 2018;392(10152):1015-1035.
  • Burton R, Sheron N. No level of alcohol consumption improves health. Lancet. 2018;392(10152):987-988.
  • GBD 2020 Alcohol Collaborators. Population-level risks of alcohol consumption by amount, geography, age, sex, and year. Lancet. 2022;400(10347):185-235.
  • Rehm J, et al. Health and cancer risks associated with low levels of alcohol consumption. Lancet Public Health. 2023;8(1):e6-e7.
  • International Agency for Research on Cancer. IARC Monographs Vol. 100E. 2012.